fate

 君の名を呼ぶ。



 僕らは、ずっと一緒だ。

突然頭の中に言葉が浮かんで、アレルヤははっ、と顔を上げた。
傍に居たティエリアが、訝しげに眉根を寄せる。
「どうした、アレルヤ・ハプティズム」
「い、いや、今・・・何か・・・」
はっきりとしないアレルヤに苛立ったのか、ティエリアが姿を消した。
「(でも確かに、“声”が)」
自分用スペースに設置された寝台に腰掛けて、アレルヤは目を閉じる。
白昼夢でも見たのかもしれない。
何せ滅多に休暇の取れない活動だ、疲れているに違いない。
次のミッションプランまで、随分と時間があるから休息を取らせてもらおう。
アレルヤはそのまま、眠りの国へと意識を落とした。



 寂しさで泣いた彼を、今でもまだ覚えている。

眠る事で精神世界に降りて来た自分の分身を、ハレルヤは見つめた。
それはもう、遠い日に交わした約束。
アレルヤは忘れてしまっているだろうか。
「・・・ったく、ひでぇモンだぜ。お優しいアレルヤ様は、俺との約束を忘れるのかよ」
彼は、後悔しているのだろうか。
人を殺め、自分が傷付けられる度、アレルヤの脳裏をよぎる言葉だ。
アレルヤが忘れても、ハレルヤが忘れる事はない。
「お前が言ったんだぞ」
 宇宙を漂流し、その孤独から生まれた約束。
「・・・ハレ、ルヤ・・・」
「よぉ分身」
ゆるゆると目蓋を開けるアレルヤの顔を覗き込む。
「ハレルヤ、僕は昔、君と何か約束を・・・?」
「聞いてたのか」
「聞こえた。教えてくれ、ハレルヤ。僕は君に、何を託した?」
真剣な眼差しを、目を閉じる事でハレルヤはかわした。
教えてやるつもりはない。
彼はもう、孤独じゃないから。
「ハレルヤ?」
「うるせえな。俺が“死ぬ”までに思い出せよ」
「し・・・ぬ?」
「“予定運命”だ。最初から決まってる、俺が消えるのはな」
約束が交わされた時から、そんな気がしていた。
アレルヤ・ハプティズムの分身として生じた時から、そんな予感があった。
彼が生き残る為に、自分が必要だったと知ったときから、そんな。
「そん、な・・・。だって僕らは・・・」

 僕らは、ずっと一緒だ。

アレルヤが目を見開く。
「僕、は」
君に残酷な事を。
言葉にする事で、なんて酷な事を彼に強いたのだろう。
「・・・そんな未来、ない」
「は?」
「君が消える未来は、僕が作らない。・・・例えそれが、“世界の答え”だとしても」

 寂しさで泣いた彼を、今でもまだ覚えている。



僕と君に予定運命なんてありはしない



 君の名を、呼ぶ。
虚空に、手を伸ばして。


(2008.12.23 / 朽ちぬ絆で5のお題)