つい睨んでしまったのは、あまりにも眩しかったからだ。
流れる髪が、太陽の光を浴びて輝きを増したから。
だから僕は目を細めるしかなくて、
手を伸ばす事も、躊躇うしかなかった。
唐突に、目の前の少年が言った。
「イカロスって、知ってる?」
「はあ?」
少年の名前は雲雀恭弥と言って、外見は日本人らしくて、綺麗な顔立ちをしている。
だが口を開けば無愛想だし毒舌だし、武器を持たせたら襲い掛かって来るわで、ディーノはいつも警戒していなければならなかった。
「・・・・・昔タコだった?」
「ねえ、咬み殺されたいの」
「(ツナなら突っ込んでくれるのに・・・!)」
ギラリと光るトンファーに映る自分の顔は、酷く間抜けている。
ディーノは深く溜息を吐いた。
「悪かったよ」
「・・・もう話す気なくなった」
応接室のソファに深く身を落とした恭弥は、本当に話す気を失くしてしまったらしく、静かに目を閉じた。
「なあ悪かったって!言葉のキャッチボールしてくれよ!」
「・・・・・」
「イカロスって言ってたよな。アレだろ?太陽目指して飛んで、結局蝋が溶けて堕ちちまったって言う・・・」
ディーノが勝手に話を進めると、不機嫌ながらも恭弥は目を開ける。
こうして強引に事を進めれば、嫌々ながらも付き合ってくれるという事を、ディーノは最近覚えた。
「そうだよ」
「イカロスが何?」
「何で彼は、イカロスは、太陽を目指したんだろうね」
ブラインドを下ろした窓を、恭弥が見つめる。
つられてディーノもそちらに視線を向けた。
「父ダイダロスとイカロスは、ミノス王の不興を買って塔に幽閉されてしまう。彼らは蝋で鳥の羽根を固めて翼を作り、空を飛んで脱出したけど、イカロスは父の警告を忘れて高く飛び、太陽の熱で蝋を溶かされて墜落した」
「(意外と物知り・・・)恭弥的には、何で太陽だったのかって事か?」
「そう。大空を飛んだなら、他にも選択肢はあったんだ。海の向こうには何があるのか、とか。あの山を越えたら、何があるのか、とか。雲は掴めるのか、とか」
恭弥は自らの右手の親指にはめた、雲の刻印がついた指輪に視線を移す。
その指輪は、ボンゴレファミリーのボスを守る守護者にのみ贈られるものだ。
・・・本人がその意味を本当に解せて居るのかは、疑問だが。
「太陽って、神と喩えられる程、人から崇められてたんだろ?近付きてー!って言うのがあったんじゃないのか?」
「・・・そうだね、確かに人々を明るく照らし、見守る対象にもなってる。・・・でも傷つけるよ」
「傷付ける?」
ディーノが首を傾げると、恭弥は突然立ち上がり、ブラインドを音を立てて上げた。
真昼の太陽が室内を眩しく照らし、ディーノは目が焼かれる気がして目を閉じる。
「眩っ!」
「ほらね」
「意味分かんねぇよ!」
恭弥は再びソファに身を沈めた。
「太陽は、目を灼くよ。人々から求められるのに、傷付けるんだ」
「・・・」
「・・・僕も、目を灼かれるかな」
「お前、太陽に近付きてえの?」
気のない言葉だったが、恭弥はその言葉に反応した。
「どんな翼なら、太陽に手が届く?」
「・・・お前、火傷の心配して置けよ」
「・・・・・そうか」
そうだね、と恭弥はディーノを見、目を細める。
ディーノは恭弥が睨んだように見えた為、戦闘態勢に入ったのかと勘違いした。
恭弥の手が伸びかけて、下ろされる。
「ど、どうしたんだ、恭弥?」
「・・・火傷しそうだからね、」
ジャキ、とトンファーがディーノを見据えた。
「(僕はこれで良い、)」
「ちょ、恭弥待てって!」
「(溶かされて堕ちるのなんて、ごめんだ)」
炎の軌跡
いっそ想いごと、あなたが溶かして殺してしまえば。
(2008.12.18 / D18記念 / 皮肉な運命で20のお題)